マッシュルームレザーは伝統素材!?
人類は、いつからキノコを革の代替として使用しているのか、その歴史について考察してみます。
ルーマニアの伝統素材アマドゥ
写真はルーマニアの伝統的なマッシュルームレザー「Amadou(アマドゥ)」です。数百年の歴史をもつといわれ、その技術は職人により受け継がれ、帽子や財布などに利用されてきました。このサンプルは、ルーマニアで代々150年以上生産を続ける工房から購入したものです。
原料となるのは、ブナの倒木などに生える堅いキノコであるツリガネタケ。このキノコは、樹木の内部で育ち、幅数センチの棚状の傘を幹につけます。この傘を鎌で刈り取り、薄く削って細長い切れ端にし、それを木槌でたたいて、幅広のフェルト状のシートに引き伸ばしてつくられています。
革新的な素材として注目されるマッシュルームレザーですが、実は古い歴史をもつ伝統的な素材だったのです。
アイスマンとキノコ
ツリガネタケと人類との関係を調べると、新石器時代にまで遡ることができます。
1991年、アルプスの氷河で見つかった、約5300年前(新石器時代)に凍結した男性のミイラ「アイスマン」。
このアイスマンの腰に巻かれた革製の入れ物の中に、ツリガネタケの繊維を綿状にほぐしたものと、黄鉄鉱の火打石が入っていました。
ヨーロッパでは昔から、綿状にほぐした物を火打石の火花の着火剤・火口(ホクチ)として利用していました。ツリガネタケ(Fomes fomentarius)の学名Fomes(フォメス)は「火口(ほくち)」を意味します。
日本にも北海道のアイヌなどでホクチタケという呼び名があり、文明を問わず、キノコは食用以外に幅広く利用されてきたと考えられます。
キノコの菌糸は太さ100分の1mm以下で、着火しやすく燃えつき難いという、相反する性質が求められる火口に適しています。
火口として利用するには、一週間、細かくスライスしたアマドゥを炭酸ナトリウムに浸しながら、ときどき軽く叩き、それから乾燥させる必要があります。より複雑な工程が必要な火口として利用していたのであれば、生地としてもアマドゥを利用していたと想像するのは難くありません。
アイスマンが身につけていた革
同時にアイスマンは様々な動物の革製品を身につけていたことがわかっています。
靴ひもは牛、毛皮のコートの各部と腰布は羊。レギンスはヤギを材料にしていました。これらの動物はすでに家畜化されていたことがDNA分析からわかっています。また帽子にはヒグマ、矢筒にはノロジカなど、野生動物の革も使用されています。
自然と調和し、持続可能な未来へ
太古より人類は、キノコと革と共に暮らし、厳しい環境を生き抜いてきました。
「Hitoe® Fold Aria -Mushroom-」は、過去から受け継がれたキノコや革といった伝統的な素材と、現代の環境意識が融合した製品です。
私たちの祖先が自然と調和しながら生活してきたように、この製品も、持続可能な未来へと繋がる一歩を象徴しています。